『蹴りたい背中』
綿谷りさの芥川賞受賞作です。
現役高校生が読んだら、「自分のコトが書いてある」とか「自分の気持ちを代弁してくれている」などと思うのでしょうか。
あるいは、年をとって読んだからこそ、「あのころの自分ってこうだったな」と思えるのでしょうか。
“仲間と群がる”ことを避けて、いつの間にかクラスから孤立した格好になってしまった高校生のハツ。同じく、しかしこちらは自然な形でクラスから孤立しているにな川と、ひょんなことから係わりを持つ事になってしまう。
風変わりなにな川。彼に対して湧き上がる、自分でも説明のつけられない衝動。
中学時代からの女友達への、恋にも似た感情。
ハツもにな川も、孤立して当然の変わったキャラクター。しかし、彼らは決して特別ではありません。
自分が高校生だった頃を思い出しても、今の高校生を見ていても、ハツやにな川の持つ要素は誰にでも備わっていると思える。
ハツが考えているようなこと、たとえば作り笑いのことと。
昔からの友達が自分を出汁に仲間との関係を盛り上げているという被害妄想。
説明がつかないし抑えきれない衝動的な気持ちなど、きっと誰にでもあるはず。
にな川の、自分の妄想の世界での暴走や、それがある時現実と衝突することによって受けるショックなども、形は様々ながら似たような経験は、これまた誰にでもあるのではないでしょうか。
そしてハツは、冷静に周りを俯瞰しているつもりになっているが、実は広く周りが見えていないだけ。
そういう人はたくさんいるし、そういう要素は誰にでもある。
どちらかと言えば、苦い、しかし避けられない共感を、読者に呼び起こさせる、そんな作品です。
イチロー選手の打法のような、一見不安定に見えるものの、実は鋭いヒットを生み出す、そんな感じの綿谷りさのスタイルは、大きな可能性を感じさせます。
作品や文体にまだ幼さというか若さが強く感じられるものの、受賞納得の力量です。
好き嫌いは別れるであろう、あくの強いスタイルかもしれませんが、今後が楽しみです。
蹴りたい背中
綿矢 りさ / 河出書房新社
スコア選択: ★★★
現役高校生が読んだら、「自分のコトが書いてある」とか「自分の気持ちを代弁してくれている」などと思うのでしょうか。
あるいは、年をとって読んだからこそ、「あのころの自分ってこうだったな」と思えるのでしょうか。
“仲間と群がる”ことを避けて、いつの間にかクラスから孤立した格好になってしまった高校生のハツ。同じく、しかしこちらは自然な形でクラスから孤立しているにな川と、ひょんなことから係わりを持つ事になってしまう。
風変わりなにな川。彼に対して湧き上がる、自分でも説明のつけられない衝動。
中学時代からの女友達への、恋にも似た感情。
ハツもにな川も、孤立して当然の変わったキャラクター。しかし、彼らは決して特別ではありません。
自分が高校生だった頃を思い出しても、今の高校生を見ていても、ハツやにな川の持つ要素は誰にでも備わっていると思える。
ハツが考えているようなこと、たとえば作り笑いのことと。
昔からの友達が自分を出汁に仲間との関係を盛り上げているという被害妄想。
説明がつかないし抑えきれない衝動的な気持ちなど、きっと誰にでもあるはず。
にな川の、自分の妄想の世界での暴走や、それがある時現実と衝突することによって受けるショックなども、形は様々ながら似たような経験は、これまた誰にでもあるのではないでしょうか。
そしてハツは、冷静に周りを俯瞰しているつもりになっているが、実は広く周りが見えていないだけ。
そういう人はたくさんいるし、そういう要素は誰にでもある。
どちらかと言えば、苦い、しかし避けられない共感を、読者に呼び起こさせる、そんな作品です。
イチロー選手の打法のような、一見不安定に見えるものの、実は鋭いヒットを生み出す、そんな感じの綿谷りさのスタイルは、大きな可能性を感じさせます。
作品や文体にまだ幼さというか若さが強く感じられるものの、受賞納得の力量です。
好き嫌いは別れるであろう、あくの強いスタイルかもしれませんが、今後が楽しみです。
蹴りたい背中
綿矢 りさ / 河出書房新社
スコア選択: ★★★
by chiemhana
| 2005-06-21 08:57
| 本